[読書]ヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』

チャパーエフと空虚

チャパーエフと空虚

日本に帰って来て初めて書店に行ってこの本を見つけた時はとても嬉しかったです。
何せ大好きな作家ですし、出版されてる本も少ないし、新訳が出てるなんて思ってもいませんでしたから。
前に訳出された『恐怖の兜』は面白くはあったがスタイルの面で先鋭的すぎてついていけない部分もありましたが、この作品は1995年刊行ということもあり比較的落ち着いて読めました。
主人公は重度の精神病患者で、幻覚の世界に埋没してしまうのですが、現実の世界に戻ることは決してなく、幻覚と幻覚の間を行ったり来たりしているように読めます。
その幻覚世界はとても悪夢的なものではありますが、読んでいる間は妙に明るく、むしろ楽しい世界に思えてしまいます。
その悪夢の中で、「自分は存在するのか」「存在するとしたらどこにあるのか」「その場所はどこにあるのか」みたいな哲学議論を延々と繰り広げますが、タイトルにもある主人公の名前が示すとおり、結局は「空虚」っていう感じですかね。
しかし、結末はとても清々しい穏やかなハッピーエンドにすら思えてしまう不思議な読後感を与えてくれるので、「ああ、なんか良い本読んだな」っていう気になれるとってもお得な本でした。