[読書]ローラン・トポール『リュシエンヌに薔薇を』

リュシエンヌに薔薇を

リュシエンヌに薔薇を

フランスの作家、ローラン・トポールの短編集。
収録されてる短編は長いものでも20ページ程度、短いものだと2行くらいのもある。
ショート・ショートと言っていいだろう。
ただ、短いながらもきっちりと小説として構成されている。
内容としては、日常の中の非日常、それをブラックユーモアを効かせながらシニカルに纏めてある。
タイトルからはもっとお洒落でロマンティックなものを想像したが、そんなことはなく、非常に悪夢的。
この短編集の最も個性的な点はオチのつけ方だろう。
最後の一文で今まで築いてきた小説の世界を全て壊したり、ひっくり返したりするのは短編ではよくあるオチのつけ方であるが、ローラン・トポールの場合、その最後の一文における壊し方が尋常ではない。
それまでの世界も充分奇妙だったにも関わらず、さらに奇妙な世界へと持っていってしまう。
それによって、読者は最終的な話の終着点はおろか、話のぼんやりとした概要に対するビジョンまでも失い朦朧となってしまう。
無論、全くわけがわからないというのではない。
だが、最後に残る何とも説明のしがたい後味は気味が悪く、不安にさせられる。
といっても全ての作品がそうというわけではない。
中には、きっちり起承転結がついてるもの、くだらないユーモア、軽めの作品もそこそこある。
表題作は「リュシエンヌに四本の薔薇を」という作品で「四本の薔薇」とはバーボンの銘柄、つまりフォア・ローゼスのこと。
これは非常に不思議な作品だが、幻想的でロマンティックでもあり優れた作品だ。
タイトル通り夢を題材にした「静かに!夢を見ているから」は比較的安心して読める作品。
「悪い聴衆」は普通にジョークっぽく面白い。
どの作品も強烈に印象が残る。
ローラン・トポール、凄い作家だ。