[読書]マーシャ・メヘラーン『柘榴のスープ』

柘榴のスープ

柘榴のスープ

どうでもいいんだが、「エロ忍法」で検索してくる人多いな。
そもそも、「エロ忍法」がキーワードになってることが軽い驚きではあるんだが。
皆そんなに気になるか、「エロ忍法」が。
さて、この本はイラン出身の女流作家、マーシャ・メヘラーンのデビュー作。
革命のイランから脱出した三姉妹がアイルランドの田舎でカフェを開くというストーリー。
三姉妹が町の人々と交流を深め、カフェを成功させていく中で、田舎街に暮らす人々、三姉妹の過去といった細かいエピソードを散りばめていく。
そして、そこに彼女達の作るペルシア料理が絡んでくるのだが、この料理がこの小説の重要なテーマでもあり、物語に独自性を与えるエッセンスでもある。
章ごとに様々な料理が登場し、また章の頭にはそれらのレシピが付いてくる。
登場する料理は、私が食べたことのないペルシア料理、聞いたことの無いスパイスや調味料がいっぱい出てくるが、異国情緒たっぷりで好奇心が刺激されるし、何よりとても美味しそう。
レシピは材料から料理法まで結構詳しく書いてあるので、興味を持った人は実際に作ってみるといいだろう。
そのためにつけたのだろうし、自分も実際作ってみるつもりだ。
小説自体もとても面白いし、ストーリーは良い話で読んで見て損は無い。

[読書]サミュエル・R・ディレイニー他『ベータ2のバラッド』

ベータ2のバラッド (未来の文学)

ベータ2のバラッド (未来の文学)

久しぶりにアンソロジーを読んだ気がする。
大好きなニュ−・ウェーブSFの傑作選ということで期待大だった。
一篇ずつ紹介していこう。

 サミュエル・R・ディレイニー「ベータ2のバラッド」
ディレイニーと言ったら『アインシュタイン交点』がわけわからなくて面白かったが、この作品は初期のものであるせいか、独特の難解さや多重構造になった複雑さみたいのはあんまりない、とても読みやすく、普通の謎解きができて面白い。
逆に言うとやや物足りない。
いかにもニュー・ウェーブって感じの作品ではなく、若干拍子抜け。

 バリントン・J・ベイリー四色問題
ベイリーと言ったら長編は『禅銃』しか知らないが、結構変な作品を書く人だと思う。
この作品もかなりのカオス。
はっきり言って全然意味がわからん。
個人的には特に意味は無くて、ある種のギャグなんだと思うが、これを普通に面白いと思う人がいるのだろうか、疑問だね。
ただ、バロウズっぽさが随所に出ててそこが笑えるポイントではある。

 キース・ロバーツ「降誕祭前夜」
大好きなキース・ロバーツ。あんま読んだこと無いけど。
この作品もとても良い。とにかく上手い。
内容的には『バヴァーヌ』と同じ時間改変系、キース・ロバーツのお家芸らしい。
静かな淡々とした雰囲気と激しい描写が交錯し、読後は寂寥感が胸を打つ素晴らしいサスペンスだった。
えっと、ニュー・ウェーブSFのアンソロジーだったよね?

 ハーラン・エリスン「プリティ・マギー・マネー・アイズ」
この作品って、サンリオSF文庫の『ザ・ベストSF1』に入っていたけど邦訳された時に割愛された作品だったような気がする。
しかも、その理由が「この作品は英語じゃないと面白くないから」っていうのだった気がしたが、何で今邦訳されたのだろうか。勘違いか?
それにしても、エリスンの文章はギラギラしてる。
他のSFでもギャンブルを題材にしたこの作品も等しくギラついている。
昔はこのヴァイオレンスな臭いの漂うギンギンギラギラのこの文章を読んで「カッコイイなー」と思っていたが、さすがに年が経ったのか。
「うわ、ギラついてんなー」に感想が変わったのは、なんとなく感慨深いものがある。

 リチャード・カウパーハートフォード手稿」
この作家は初めてだったがすごい上手い作家だ。
H・G・ウェルズの『タイムマシン』を下敷きにしたこの作品も筋運びといいアイデアといい、落ち着いた文章といい、素晴らしいの一言。

 H・G・ウェルズ「時の探検家たち」
ウェルズはやっぱり上手い。
というか、書き方が違う気がする。
この作品は「タイムマシン」の原型らしいが、内容は全く違う作品。
甲乙つけがたいが、この作品も名作だ。

6作品中、ニュー・ウェーブSFっぽい作品が「四色問題」だけっていうのが微妙なところではあるがどの作品も面白かった。
特に良かったのはキース・ロバーツ、リチャード・カウパー、ウェルズという全然ニュー・ウェーブじゃない作家というのがまた微妙だけど、まあいいんじゃないかな、面白かったから。

[日常]最悪な日

昨日、というか昨夜は今年が始まって以来の最悪な日でした。
全く、実にFuckな、おっとと、下品な言葉をつい使ってしまいました。
丁寧に言い直しましょう。
全く、実におFuckな目にあいました。これでOK。
さてさて、この私の身に何が起こったか、まあ、誰も知りたくは無いでしょう。
昨日は、久しぶりに知人達に会いに行きました。
それは別にどうでもいい、最悪なのは帰ってから起こったことです。
帰宅すると、とりあえず部屋が臭かったのです。
この臭いというのは、なんとも言えない生臭さ、すごく好意的に表現すると潮風の香りとでも言いましょうか、まあ実際はかけ離れてますが。
有体に申しますとカツブシ臭いのです。しかもすえた感じ。
普段、私の部屋は、私が愛喫している紙巻や葉巻の紅茶やブランデー、バニラといった甘い芳香が蔓延しているのですが、それを押しのけて件のカツブシ臭が跳梁跋扈しておりました。
カツブシと言えば0コンマ2秒くらいで連想されるものがTHE CAT、つまり猫ですね。
私は、飼い猫のミャオちゃん(メス11歳)が何かやらかしてくれちゃったんだろうと素早く推理しました。
と言いいますのも、私の部屋はミャオちゃんのお気に入りの場所でして、一日の半分は私の部屋の出窓に寝そべっているからなのです。
ところが、その日に限ってミャオちゃんは出窓ではなく、床に寝そべっておりました。
そして、私の顔を見るなり、挨拶もそこそこにベッドの下に隠れました。
それもそのはずでしょう、出窓にはミャオちゃんの吐瀉物がこんもりと鎮座しており、使用不能になっていたのですから。
しかも、サッシに狭い隙間のとこに。
無論、臭いの原因はこれでした。
普通に平らな場所にしてくれれば拭くだけで取れたのですが、サッシの狭い、雑巾の入らない隙間でしたから大変でした。
全部外に掻き出すまで30分かかりました。
さて、ようやく作業も終わり、クーラーをつけて寝ようかというところで第二の事件が起こりました。
私の部屋のクーラーは壊れておりまして、使い物にならない状態だったのですが、その日に電気屋が修理に来ることになっており、その夜には直っている予定でした。
しかし、直ってませんでした。
私はそんな事は知りませんでした、臭いのを我慢しつつ故に窓を閉め、クーラーを入れて布団にくるまること20分。
クソ暑かったです。しかも臭い。
クーラーが直っていないことをようやく悟った私は、窓を全開にし、ドアを開け放ち、扇風機をMAXにしました。
でも暑い、しかもまだ臭い。
そして、そこに最後に刺客が登場しました。
蚊です。二箇所、刺されました。
この時点で、私は「暑い」「臭い」「痒い」という人間の三大不快要素をコンプリートしました。
そんな私に安眠が訪れるはずも無く、ただ時だけが無常に流れて行き、ついには朝を迎えました。
「進むも地獄、退くも地獄、されど留まるも地獄、なぜならここは地獄だから」
私がよく友人に言っていた冗談を思い出しました。
とりあえず、ミャオちゃんは出入り禁止にしようと思います。

[読書]ローラン・トポール『リュシエンヌに薔薇を』

リュシエンヌに薔薇を

リュシエンヌに薔薇を

フランスの作家、ローラン・トポールの短編集。
収録されてる短編は長いものでも20ページ程度、短いものだと2行くらいのもある。
ショート・ショートと言っていいだろう。
ただ、短いながらもきっちりと小説として構成されている。
内容としては、日常の中の非日常、それをブラックユーモアを効かせながらシニカルに纏めてある。
タイトルからはもっとお洒落でロマンティックなものを想像したが、そんなことはなく、非常に悪夢的。
この短編集の最も個性的な点はオチのつけ方だろう。
最後の一文で今まで築いてきた小説の世界を全て壊したり、ひっくり返したりするのは短編ではよくあるオチのつけ方であるが、ローラン・トポールの場合、その最後の一文における壊し方が尋常ではない。
それまでの世界も充分奇妙だったにも関わらず、さらに奇妙な世界へと持っていってしまう。
それによって、読者は最終的な話の終着点はおろか、話のぼんやりとした概要に対するビジョンまでも失い朦朧となってしまう。
無論、全くわけがわからないというのではない。
だが、最後に残る何とも説明のしがたい後味は気味が悪く、不安にさせられる。
といっても全ての作品がそうというわけではない。
中には、きっちり起承転結がついてるもの、くだらないユーモア、軽めの作品もそこそこある。
表題作は「リュシエンヌに四本の薔薇を」という作品で「四本の薔薇」とはバーボンの銘柄、つまりフォア・ローゼスのこと。
これは非常に不思議な作品だが、幻想的でロマンティックでもあり優れた作品だ。
タイトル通り夢を題材にした「静かに!夢を見ているから」は比較的安心して読める作品。
「悪い聴衆」は普通にジョークっぽく面白い。
どの作品も強烈に印象が残る。
ローラン・トポール、凄い作家だ。

[日常]献血

今日、私は生まれて初めて献血に行ってきました。
見知らぬ人達の為に、我が血液を捧げてきたのです。
これは、もしかしたら私が生まれてから今日までの中で一番の善行かもしれません。
おお、ろくな人生じゃないですね。
さて、何故そのような善行を行うに至ったか?
鷲頭麻雀に負けたから、ではないよ。
健康のためです。それと、ちょっとのボランチア精神ってやつ?です。
4月に入って以来、朝は7時に起き、夜は遅くとも12時に寝て、毎日3食きっちり食べ、飲酒の量も一時期に比べれば大分減り、煙草も適度に吸っている。
今や、私は健康体を自認するほどに健康なのです。
ま、他人からは言われませんけどね。
そんな私はさらなる健康の高みを目指すべく、今回、血を抜くという事を決意したのです。
仕事終わりの午後6時過ぎに行ってみました。
まず、最初に簡単なタッチパネル式の問診をすませます。
ここでは、自身の健康状態の確認のための問診がなされます。
つまり、ここ最近に大きな病気をしたか?とか、薬を服用しているか?とか、そういうのです。
さらに、問診が進み、今度はその人物が献血に相応しいかどうかの確認のための質問がなされます。
これは、「麻薬、覚醒剤をやっているか?」とか、「不特定多数の異性と性的関係を持ちまくっているか?」とか、「(男性で)男性と性的関係をもっているか?」とか、「はい」を押した瞬間に献血拒否どころか、社会的生命の消失、最悪の場合、即逮捕みたいなきわどい質問がばんばん来るので一瞬たりとも気を抜けません。主に最初の質問とか。
もちろん、私はオール「いいえ」でした。
その後は、医師のもとに通され軽い問診、イソジンを散々両腕に塗られまくって検査用の採血、そして、さらにイソジン追加でいよいよ本採血となるわけです。
しかし、あれですね。
何歳になっても注射針が腕に刺さる瞬間はやっぱり怖い。
実際、痛かったですし。
献血用の針はかなり太かったです。
でも、痛かったのは最初の検査用の細い方でした。不思議。
ソファのような椅子に横たわり、利き腕から血を吸い上げられる事約7分。
ちなみに椅子ごとにテレビが設置されており、血を抜かれてる間も退屈しないようにできています。
なんか、エイが大量発生して困ってるから食べちゃおうみたいな事をニュースでやってました。
エイのシューマイは美味しそうでした。
血を抜いた後は、「まぁ、ゆっくりしてけ」的なことを言われ、休憩所でしばらく休息。
ここでは、お菓子食べ放題、ドリンク飲み放題、マンガや雑誌なんかも申し訳程度に置いてあるし、テレビもあるしで暇つぶしには不自由しない場所でした。
ただし、ドーナッツは一人一個!
私はそこで紅茶花伝2杯、コーンスープ一杯を頂きました。
紅茶花伝は甘すぎ、コーンスープは若干薄いように感じました。
ここは改善すべき点でしょう。

[読書]ウィル・セルフ『元気なぼくらの元気なおもちゃ』

元気なぼくらの元気なおもちゃ (奇想コレクション)

元気なぼくらの元気なおもちゃ (奇想コレクション)

『コック&ブル』は超面白かったよね!はい、おしまい。
・・・というわけにも、いかないので。
この本は、イギリスの奇才ウィル・セルフの初の日本版短編集である。
のだが、正直、期待外れと言いますか、がっかりと言いますか。
奇想コレクションの中でもこれを一番楽しみにしていただけに、がっかり感もひとしおな感じですよ。
少なくとも、『コック&ブル』のような興奮や気色悪さを感じることはできないでしょう。
この短編集の中で最も悪趣味な作品は「愛情と共感」だが、それでも物足りない。
というか、オチがあざとすぎる気がする。
表題作は淡々とした中に展開の妙がじっくりと味わえる作品、だが、こういうのじゃないんだよなぁ〜、求めてるのは。
「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」は『ディスコ・ビスケッツ』に入ってそうな感じの作品で、それ以上でも、それ以下でもないって感じだ・・・。
ボルボ760ターボの設計上の欠陥について」はオチが読み易すぎ。
「ザ・ノンス・プライズ」に至ってはかなり普通の小説。
長いわりに、あんまり楽しめなかった。
良い話っぽいけどね。だから、求めてないんだって。
まあ、今回はセルフの作品の中でも読みやすく、わかりやすいものに比重を置いているらしいので、仕方ないか。
今後、もっと濃い、セルフ150%な短編集が出ることを期待している。

PAIN OF SALVATION『Entropia』

Entropia

Entropia

意外に早く届いた。
今回は一曲づつ感想を書いていこうと思う。
長くなりそうだが、頑張ってみる。

1:「!(foreword)」一曲目から、PAIN OF SALVATION全開な場面展開の多い複雑な曲。音で人間の内面というか感情を表現しているのは、1stの頃からやっていたんだなあ。
ギターソロがとても美しく、印象深い。
2:「Welcome to entropia」波の音と、テクノっぽい音で構成されたインスト曲。短い曲で、タイトルから見るとおり、この曲をこのアルバムのプロローグと捉えるべきか。
3:「WINNING a War」ミドルテンポのゆったりした曲。ゆったりしてるが起伏が激しく、中盤からはかなりの盛り上がりを見せる。
4:「People Passing By」ジャズっぽいベースのイントロから入る曲。
テンポが良く、序盤から印象に残るサビまでの展開が心地よい。
5:「OBLIVION OCEAN」かなり暗いバラード。静かで淡々としているが、美しいメロディと悲しい詩、そして、それを切々と歌い上げるヴォーカルが胸を打つ。
6:「Stress」かなり変な曲。ぶっ壊れた展開と、不思議なメロディのループが脳を刺激してくる。
7:「Revival」スピードの速い激しい曲。スピードダウンした中盤から場面転換が多い。
8:「VOID Of Her」泣きのギターによるインスト曲。
9:「to the end」メロディアスでスピードの速い曲。特にサビはメロスピみたいだ。このアルバムの中では、一番ストレートにロックしてる曲に思える。
でも、中盤からはやっぱり場面転換。
10:「CIRCLES」とても短い曲。
11:「Nightmist」個人的にはこの曲が一番好き。暗く、絶望的な雰囲気を漂わせる詩とメロディがたまらない。
そして、ソロパートが最高にかっこいい。特にベースがヤバすぎ。
12:「PLains of Dawn」泣きのバラード。この曲も捨てがたい。
序盤は気だるげな雰囲気だが、サビのメロディが心に染みて、感動せずにはいられない。詩もいい。
13:「Leaving entropia(epirogue)」ほとんど無音に近い演奏をバックに静かにヴォーカルの歌が乗る。締めくくりにふさわしい曲だ。

全体的に、起伏の激しい、場面転換の多い複雑な曲が多いのは、PAIN OF SALVATIONの特徴であるが、ブレイクから場面転換に繋げるという手法が非常に多く、そのあたりはまだぎこちなさというか、熟成されきっていないものを感じる。
とはいえ、それすらも魅力に感じてしまうのは、曲の部分ごとの質が非常にいいからなのだろうか。
いずれにせよ、最近の作品にも負けないくらい良いアルバムであることは間違いない。